「故郷」への想い

2011年(平成23年)3月11日 東日本大震災発生

津波は彼の故郷も襲った。

彼はその時、東京の本社にいた。
夜、電話をかけると、
さすがに声は沈んでいた。
実家に電話しても繋がらないようだった。

幸い、彼の家は無事だった。

あの時から、日本は大きく変わった。

故郷を失った人たち。
そして、故郷を取り戻そうと動き始めた人たち。
そして今在る故郷に感謝する人たち。

そして、それぞれに「故郷(ホーム)」を
想い始めたのだと思う。

それから1年が過ぎ、
わたしたちは東京で会った。

彼は懐から設計図を出した。
自治体が被災者支援で、
跡地に家を建てる場合は補助金を出すという。

それで、設計図を書いてもらったのだそうだ。

焼き鳥屋でも始めようかな、そう言った。

わたしは耳を疑った。

帰るの?
故郷に?
仕事はどうするの?
今から焼き鳥屋?
やっていけるの?

半ば呆れ、半ば失望していた。

でも、一番悲しかったのは、
彼がわたしに何も言わずに、ひとりで決めたことだったのだ。

そして、もう一つ。
わたしは気付いてしまった。

「お前はどうしたい?」
そう聞かれたら、答えられただろうか?

「俺についてくるか?」
そう言われたら、
ためらいなく、「はい」と答えられただろうか?

友達を失くし、家族とも離れ、
ずっと頑張ってきた。
いつか一緒になれる。
いつか一緒に暮らせるようになる
そう思ってきた。

でも、
彼にも私にも、心のどこかでは分っていたのだ。
甘くゆるく育ってきたわたしが、
傷ついた東北では暮らしていけないということ。
そして、彼自身、
自分のことで精いっぱいだということ。

故郷を失ったものにしかその辛さはわからない。
だから、わたしには理解できない。

でも、故郷へ帰りたいそういう彼の想いは伝わった。

その想いを受け止める覚悟はできなかった。

想いだけでは未来は拓けない。

結局、わたしは、彼の家(ホーム)にはなれなかった。

 

 

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