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6月のある日、

セレモニーホールの一室で、

ある家族葬がひっそりと行われていた。

参列者は、

妹夫婦とその娘、

その関係者、

あとは故人の友人達数名だった。

静かな雨音が、

寂しさをいっそう深めている気がする。

いつもお世話になっている

わたしのご近所さんが、

たまたま故人の友人の知り合いで、

旅行中で葬儀に参列出来ないから、

代わりに行ってきてほしいと頼まれ、

香典を預かっていたところ、

昨夜から急に腰痛が悪化し、行けなくなったので、

わたしに香典を届けてきてほしい、

そう頼まれた。

なんとも面倒くさく、

そこまでして届ける必要があるのかとも思ったが、

断りきれず、

「受け付けに置いてくるぐらいは大丈夫ですよ」

そう答えて、

今日、地元経営の小さなセレモニーホールに

きたわけだった。

受け付けで香典を渡すと、

そのまま帰ろうとしたら、

「あの、おじさんのご友人の方ですかか?」

後ろから声をかけられた。

振り返ると、ひとりの女性が立っていた。

腕には花束を抱えている。

「出棺までまだ少し時間があるので、どうぞ、お参りしていってください」

そう言われたら、代理だと言って断れなかった。

わたしは、会ったこともない人の霊前に手を合わせた。

物言いたげな、老人の顔がわたしを睨んでいた。

その女性が申し訳なさそうに、

「すみません、代理の方だったんですね。」

「そうです、どうしてわかったんですか?」

「あまりに丁寧に、お参りされたからです。」

彼女の表情は、悲しみと哀れみ、そして懐かしさがまざっていた。

「生前の叔父を知っている人は、誰も目をそらすようにしていましたから、」

でも、

彼女の目には怒りがあった。

「それは仕方がないことだったんです。叔父だけが悪いわけではないんですよ!」

「はあ、そうなんですか」

知らないのだし、何とも言いようがない。

「すみません、代理の方にムキになって」

彼女はそう言って寂しそうに笑った。

みんながあまりにも冷たいので、、、

確かに、出棺まじかだと言うのに、

誰もいない。

係りの人だけが、

花や祭壇を動かしている。

控え室の方いるのだろうか、

賑やかな声が聞こえてきた。

「おじさんの他の家族の方はどうされたんですか?」

ついつい聞いてしまった。

「昔は奥さんもいたんですが、色々あって、

子供もいなかったので」

なるほど、

それで、身内が少ないのか。

「気難しい人だったみたいで、

人嫌いだったんです。

でも、わたしには優しい叔父でした。

叔父はきっと、きっと寂しかったんです」

「なるほど。あなたは、おじさんのよき理解者だったんですね」

彼女はボロボロになった写真を1枚取り出した。

今目の前にあるのと同じ瞳を持った親子が写っていた。

叔父の小さい頃の写真です。

いつも離さず持っていた財布の中に入っていました。

そっと棺桶の中に入れてあげようと思います。

彼女はそう言った。

出棺の準備ができ、

少ない参列者が集まってきた。

わたしは、彼女に会釈をして、

その場を離れた。

あの写真の母親は、

彼女にそっくりだった。

彼と母親の間にどう言う経緯があったのかはわからないが、

彼は、彼女の中に母親の眼差しをみていたのだろう。

人は、結局、

いつも何かを求めている。

わたしの相談所にやってくる人たちも、

何かを求めている。

でも、一番の問題は、

本人がそれが「何か」に気づいていないことだ。

それがわかれば、

人生はもっとラクになるだろう、

頭上にはいつのまにか青空が広がっていた。

梅雨明けは間近かもしれない。