笑顔

7月のショッピングモールは、

混み合っている。

半期に一度の賞与が出るからだと思う。

だから、行き交う人の顔にも、

普段より、余裕や笑みが見える。

今まで頑張ってきたのだから、

これぐらいは、ご褒美だ、

そう思って

会社員時代、

わたし自身もそうゆう顔をして歩いていたにちがいない。

その頃が、ふっと懐かしくなる。

今日のクライアントさんとの打ち合わせに、

まだ少し時間があったので、

ショッピングモールの中にあるカフェで、

少し時間調整をすることにした。

昼食の時間はとっくに過ぎているが、

店はまあまあの混み具合、

だから、となりの会話も自然に耳に入ってくる。

「とにかくお金がかかるのよ、うちのことで精一杯、

亡くなった主人の年金だけではなかなかやっていけないの」

「でも、息子さんたちからの仕送りもあるんでしょ。」

「あるけど、とてもとても足りなくて」

この世代のの女性からよく耳にする、

愚痴というか、不満談義。

でも、お昼に友人とコーヒーを愉しんでいるわけだから、

いうほど大変でもないだろうと思う。

相手の女性も聞き慣れているのか、

ほどよく相槌などをうって、傾聴ぶりもなかなかだ。

見習うとこ大である。

この終わりのない会話にどう終止符を打つのか気にもなったが、

約束の時間が近づいてきたので、

席を立つことにした。

それにしても

「足るを知る」

とは、このことだな、と思った。

飲食店エリアの回転ずし店の前を通り過ぎたとき、

元気のよい男の子の声が耳に入ってきた。

「ほんと?お母さん、今日は何皿食べてもいいの?」

「いいって言ってるでしょ。恥ずかしいからそんな大きな声で言わないでよ。」

と、それでも笑顔で返していた。

「だって、ねえ」

そう言って、父親の顔を見上げていた。

今日だけだぞ、

まだ若い父親も笑いながらそう言って、
ベビカーを持って、店の中に入っていった。

半期に一度のこのシーズンの恩恵は子どもにもあるらしい。

いつもいつも贅沢ができるわけではない、

だけど、それに不満はない。
誕生日とか、クリスマスなどと同じ、
ちょっと特別な日を楽しんでいるだけだ。

ふっと、先ほどの女性のことを思い出す。

彼女が失ったのは、お金ではない。

ご主人が生きていた頃、

この親子のように、
笑顔と愛情が溢れていたのだ。
それはお金があったからではない。

それをお金の力だと信じていること、
その想いが彼女を不幸にしている。

彼女の話を聞いていた友人、

いつも、話に付き合ってくれる友人
自分の言葉に耳を傾けてくれる友人
それも大切な財産だ。

その友人のためにも、
1
日も早く気づいてほしい。

そう願わずにはいられない。

わたしのことを待っていてくれる、
笑顔でいっぱいのクライアントさんの
家に向かいながら、そう思った。

 

※これはフィクションです。