スリッパ

先日、クライアントさんである、
一人の女性が、わたしの相談所を訪ねてきた。

彼女は「わのわ」という、
手作り小物のお店を営んでいる。

「和物」の「和」と人の「輪」から、
その名にしたそうだ。

「実は今のお店、手狭になってきたから、
新しい場所を探しているんです。
いい不動産屋さん、ご存じないでしょうか。」

「場所はどの辺りが希望ですか?
何かの本で、住みたい街が見つかれば、
その町の不動産に聞けばいいというのを読んだことがありますが。」

「お客様用の駐車場があれば町や場所には拘りはありません。
ただ、いずれは住居も兼ねたいと思っているので、
古民家などがあれば嬉しいのですが。」

「ああ、それはいいですね。
少しずつ手を加えていけるのも、楽しみの1つでしょうし。
不動産屋さんに知り合いはいなけど、
建設会社には心当たりがあるので、聞いてみますね。」

現に、空き家は空き店舗はあちこちにある。
息子や娘は県外で暮らしていて、
家を守る者がいない、

後継者がいないので店を続けられない、

そう言った話もよく耳にする。

でも、彼女のように、
必要としている人もいるのだ。

ふと、ある
不動産屋さんを思い出した。

商店街にある小さなお店だった。

開店以来、
少し年配の社長さんらしい人が、
毎朝丁寧に玄関先を掃いていた、

店内は明るく、受付には花が飾ってあった。

そして、入口にはいつもスリッパが、
きちんと2つ並べられていた。

いつ、誰が来店されてもいいように、
来店するのを心から待っているように、

そのスリッパを見たとき、
一度も話したことはないけれども、
その社長さんの人柄と、
お店に対する気持ちが痛いほど、伝わってきた。

新しいスタートを切った、
希望と期待に溢れているお店だった。

でも、数年後、、
その店の前を通ると、
既にその店はなくなっていた。

地方の商店街の衰退が、、
そんなささやかな夢も奪ってしまうのかと、
胸が痛んだ。

もし、あのお店がまだ残っていたら、
わたしは間違いなく彼女に紹介しただろう。

彼女が帰った後、
知り合いの建設会社の社長に連絡をとった。

「空き家はあると思いますよ、
ただ、持ち主となかなか連絡が取れないんですよ。
でも、ま、聞いてみますね」

なるほど、
空き家が放置されているのには、
ちゃんと事情があるのだ。

彼女には申し訳ないが、
あまり期待しないで連絡を待つことにした。

そして、機会を作って、、
わたしも不動産を当ってみようと思った。

それから数カ月、
久しぶりに彼女から絵葉書が届いた。

「おかげさまで、新しい物件がみつかりました。
この秋から入居します。
先生の事務所からも近いので、是非遊びにいらしてくださいね。」

美しい和の模様が、
彼女の希望と期待を映しだしていた。