冬の蝉

全ての物事には、

適した時間、適した場所がある。

わたしたちは、

どんなに大変だとしても、

今を超えては生きられない。

例えば、

SF映画に出てくる、冷凍睡眠装置とかで、

時代を超えて眠らされたとしても、

目が覚めた時代で生き抜いていけるとは、

思えない。

でも、もし、そういう事態に陥ったとすれば、

どう生き抜くのだろうか?

これは、そういう事態に陥った、

一匹の蝉の話である。

 

目が覚めたとき、

何か違和感を感じた。

そこは土の中でもなく、

木の上でもない。

何か温かく乾いたものに包まれていたからである。

這い出してみると、

そこは誰かの家だった。

家というよりも、

小屋だ。

どうやら干し草の中にいたようだ。

人の気配はなく、

土の匂いしかしない。

いろいろな機械や、材木が積んである。

でも、わけがわからない。

自分はどうして、ここにいるのだろう?

他の仲間はどうなったのだろう?

声ひとつしないのだ。

あたりを見回すと、

上の方に陽が差しているのが見えた。

身体の力を振り絞って、

外に出てみると、

あたりは一面の銀世界。

真っ白で冷たいモノに覆われていた。

少しずつ、

記憶が戻ってくる。

あれは、夏の終わりだった。

いつにない大風と大雨に襲われ、

逃げることも出来ずに、

ここまで吹き飛ばされてきたのだ。

そして、どうかして、睡眠状態に入ったらしい。

本当は一度目が覚め、地上に出たら、

それで一生は終わるはずだったのに、

どうやらに度目の覚醒をしたらしい。

絶望的だ。

二度目の覚醒なんて聞いたことはない。

それにこの寒さ。

呼吸も出来ない。

この先、どう生きればいいのだろう。

ここには生きていくための木も見当たらない。

とりあえず、あまり動き回らないことにしょう。

そうだ、もう一度眠ろう。

そうしたら、この悪夢から目が醒めるかもしれない。

真っ青な空と太陽の日差しが照りつける、

あの場所に戻れるかもしれない。

そして、その小さな蝉は干し草の中に、

再び潜りこみ、目を閉じた。

再び、目が覚めたとき、

自体は全く変わらないことを知り、

小さなため息を着いた。

でもそっと外を見てみると、

また、見たこともない風景が広がっていた。

月明かりと、満点の星。

そして、時折、星が降りてきたと勘違いするほど、

キラキラしながら、地上を舞う雪。

寒さも空腹も忘れて、

ただただ、その美しさに見とれていた。

それから、何度目か、

再び目を覚ましたとき、

外の方に、

人の気配を感じた。

人間の子供たちが、雪遊びをしていた。

犬も、すぐ近くににいて、

跳ね回っている。

でも、その様子は、

知っている人間の姿ではなかった。

身体中を、暖かそうな衣服で多い、

吐く息も白い。

自分たちを追い回す編みも持たず、

白い塊を楽しそうに互いにぶつけあっている。

笑顔と雪が太陽に反射して眩しかった。

そして、

そのあと、

信じられないものを見た。

人間の大人が、

大きな木を運んできたのだ。

青々と葉を広げた大きな木だった。

干し草や、切られた丸太木とは違い、

生きている木だった。

子供たちが歓声を挙げた。

「おっきい!、これをツリーにするの」

「そうだよ。みんなで飾ろう!」

そして、その木を中に運び込んだ。

あの木のそばにいきたい。

あの木に止まりたい。

それが、彼の心に生まれた小さな希望だった。

月明かりが辺りを照らすころ、

その小さな蝉は、外に出た。

空気は澄んで氷のようだった、

彼の羽も、体も、引きちぎられるようだった。

でも、人間たちの家の方に向かって、

力一杯飛んだ。

ようやく軒下までたどり着くことが出来た。

そこで息をつき、

小さな隙間から、家の中に入った。

何も見えなかったが、

確かに、木のにおいがした。

ひたすらそこ向かって飛んだ。

ようやく、木にたどり着いた。

でも、幹に止まろうとしても、

トゲトゲの葉っぱに何度も邪魔された。

ようやく幹に止まることができた。

温もりが、彼の身体と心を包んだ。

懐かしい感覚だった。

彼は、思いっきり樹液を味わった。

こんなに美味しいと感じたことはなかった。

そして、そっと目を閉じた。

瞼の奥には、思いっきり羽を伸ばして飛び回っていた、

あの夏の自分と、

多くの仲間たちがいた。

 

「あ、お母さん、蝉がいるよ、冬なのに!

サンタと一緒に来たのかな」

 

でもyその歓声は、もう彼には届かず、

そして、彼は再び目覚めることはなかった。