ときのまにまに 番外⑤ 時代遅れ

悪い感染症が流行っているらしい。

どおりでみんながマスクをつけているわけだ。

え、知らないの?

ニュースやSNSで毎日騒がれているよ。

誰かがそう言っていたけど、

朝は材料の仕込み、

10時の開店に合わせていくつか焼き上げとかなくてはいけない。

それが6時の閉店まで続く。

一日中狭い店の中にいるから、足腰もキツい。

家に帰ったらビールを一缶だけ空け、

風呂に入って後は寝るだけ。

もう、何十年もそういう生活をしている。

だから、テレビも見ることなんてほとんどない。

ましてやインターネット?

そんなのは、自分には関係ない世界の話だ。

でも、それでも充分やってこれた。

幸い、贔屓にしてくれているお客様もいる。

一応老舗のタコ焼き屋として、マスコミで紹介してもらったこともあった。

ところが最近は、なにか様子が違ってきている。

再開発だと言われ、店舗を移設させられた。

今までとは違い、路地になったけど、

それでも馴染みのお客さんは見つけてくれた。

でも、今度はパッケージの資源が少なくなってきた。

竹の葉で作られたパックもなかなか手に入らない。

これがうちのウリでもあったのに。

類似品もあるらしいが、

マガイ物はマガイ物。

プラスチックていうのは、どうにも気に入らない。

おまけに、その感染症とやらのおかけで、

すぐ近くにあったデパートが休業した。

帰りにウチに寄ってくれていたお客さんが、

ほとんど来なくなった。

近くの飲食店も軒並みテイクアウトという看板を出している。

中に入って食べてもらうことが出来ないのだから、仕方ない。

勝手がわからず、大変だろう。

確かにウチはもともと持ち帰り商品だ。

でも、お客さんの接触を避けた商売なんて考えられない。

気軽に、声をかけて、顔を見て、笑顔を交わす。

それがウチのやり方だ。

それが、商売の在り方だ。

マスクをして、ビニール越しなんてあり得ない。

やめた、やめた。

それなら当分店を休みにしよう。

こんな状態が続くなら、お店をたたむことも考えよう。

全く、生きにくい世の中になったもんだ。

でも、何人かの馴染みの客が、

今日も、残念そうにそのお店の前を通り過ぎていくことを、

彼はまだ知らない。