ときのまにまに番外編⑦ 見えないものの影

新型コロナウイルスの恐怖は目に見えないものだった。

でも、わたしたちを不安に陥れる、
行動や思考を鎖で縛る目に見えない恐怖は、
他にもある。

トラウマもその一つかもしれない。

いつの頃からだろう、
人を信じられなくなったのは。
いつの頃からだろう、
男性に不快感を感じ始めたのは。
いつの頃からだろう、
大きな黒い影の悪夢を見るようになったのは。

もう、昔過ぎて覚えていない。

誰といても、
自分の中にはいつも違和感があった。
リアルであっているはずなのに、
まるで、ガラスの画面を通した、
別世界にいる人と話しているような気がしてた。
電源を切ると、
画面は真っ黒になる。
わたし、ひとりで部屋にいる。
そう、今の状況と対して変わらない。

だからかもしれない。
ふっと真顔になったわたしに、
「この話、興味ないの?」
「ごめん、忙しかった?」
みんなが、ちょっとしらけた感じで、
わたしに聞いてくることがよくあった。

ガラス画面の内側にいたのは、
ずっとわたしの方だったのだ。

世間では年ごろと言われ始めたころ、
それでも家に引きこもりがちなわたしを心配して、
周りの人たちが縁談をもってきてくれた。
断る理由も見つからず、何度かお見合いもした。

でも、実際会ってみると、
もっと違和感、いや嫌悪感を感じた。
まともに顔を見ることも出来なかった。

それまでに見ていた黒い影の悪夢は、
先日見合した男性の顔になったりした。

「それって、トラウマじゃない?」
会社の同僚にチラッと話したとき、
そう言われた。
「今、インナーチャイルドとかも言われて、
それ専門の治療法もあるらしいよ。一度専門家に相談してみたら?」

トラウマ、インナーチャイルド、
もしかしたら、そうなのかもしれない。
母とわたしは、遠い昔、
深い傷を負っている。
そして、その傷を負わせたのは「あの人」
それはわたしの父だ。

でも、わたしも母もその傷を受け止めて生きてきたはずだ。
でも、その他にも何かあるのだろうか。

あの日のことは今でも覚えている。
学校からかえってくると、
母が真っ暗な家の中に呆然と座っていたこと、
父の洋服や靴が消えていたこと、
父の携帯電話が繋がらなくなってたこと、

それは、父がわたしたち母娘を捨てて、
出て行ったのだと知った日のことだ。

あれから母は変わってしまった。
わたしも変わってしまった。

悪夢はあの日から見始めたのかもしれない。

※このブログはフィクションです