オレの空に届け!

突然、ライブ中止の連絡が来た。

緊急事態宣言を受けて、ライブハウスが休業するらしい。

ある程度、分かっていたけど、

やはり心の動揺は隠せなかった。

他のメンバーも連絡を受けたらしい。

「えー、まじかー?」

「いつ頃再開出来るんだろう」

「会場変更とか、出来んの?」

「いやいや、他のライブハウスも休業するらしいよ」

次々とLINEにメッセージが入ってくる。

「仕方ないな、でも練習だけは続けよう!」

そう、返したけど、

心に空いた大きな穴の塞ぎようがなかった。

歌えない、こんなことは考えたことはなかった。

これまでに、歌わなかった時期もある。

でも、これは初めての経験だ。

自分の足元が崩れていく感じがした。

街からは人が消え、笑い声が消えた。

笑顔もマスクで覆い隠されていて、

自分の目には届かない。

だからだろうか、

世の中が、どんどん暗くなってくる気がする。

ニュースもSNSも流れてくるのは感染症の話ばかり。

同僚もバンドの仲間は、外出自粛や在宅勤務を、

これまでの罪滅ぼしと称して家族サービスに勤しみ始めた。

確かに、これまで家族に寂しい思いをさせていたこともあったかもしれない。

家にいる時間が長くなったことで、気付いたたくさんのこともある。

でも、目にするもの、全ての色彩が欠いている気がしていた。

ある日、小学生の息子の言葉がポツリと言った。

「パパ、最近歌わなくなったね。」

それが、トゲのように胸に触った。

毎日触っていたギターも、触らなくなっていた。

作業の合間に歌を口ずさむこともなかった。

いつも心に流れていたメロディも、聞こえなかった。

自分は「音楽」を失ってしまったのだ。

あんなに愛していたのに、

あんなに夢中になっていたのに、

音楽を失ってしまった自分は一体何なのだろう?

そのあと、どうやって生きていたのか、

ほとんど覚えていない。

朝起きて、出勤し、

夕方帰ってきて、家族と過ごす。

笑顔で、穏やかに、いつものように。

でも、ただそれだけ。

それだけで生きている。

それから1年近くが過ぎた。

まだ、感染拡大は治らない。

だけど、少しずつ社会は正常さを取り戻しつつあった。

あちこちのライブハウスが再開したという噂を、

意識の遠いところで聞いていた。

庭で息子の話す声がした。

洗濯物を干す母親にまとわりついていた。

いつもの光景だ。

母親は、笑いながらかわしていた。

「お母さん、今ちょっと手が離せないから、

先に始めていて。」

どうやら庭で何かを作るらしい。

息子は、道具を並べ始めた。

DIYに凝っているのよ。

確か、そう言っていた気もする。

「俺も手伝おうか」

そう言いかけたとき、ふと耳に入ってきた声。

音程は狂っているし、歌詞も微妙に違うけど、

紛れもなく、自分の曲だった。

自分も歌わなくなっていたのに、

バンド活動で寂しい想いをさせていたのに、

なぜ、音楽を失ったなんて思ったのだろう。

いつの間に、人前で歌うことばかり考えていたのだろう。

手を伸ばすところにギターがあるのに、

いつでも、何処でも歌うことができたのに。

ああ、今日やっとわかった気がする。

これまで自分が歌うことで、誰かを励ましていたつもりでいた。

でも、自分が歌うことで、自分が励まされていたのだ。

もう一度、歌おう。

自分の音楽を、この青い空に届けよう。

自分の心の中に広がる、この青い空に届けよう!